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2020.11.27

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インタビュー 伊藤美誠 全日本選手権初の表彰台。五輪代表争いを経て (2016年4月号から)

  • これまでとは違う攻めるプレーで勝負し、初の全日本ベスト4入りを果たした

昭和22年創刊、800号を迎えたニッタクニュースのバックナンバーから編集部がピックアップしてお届けするページです。

 

先のITTFファイナル、女子ワールドカップで3位入賞を果たし、世界トップで活躍する伊藤美誠選手が、初のベスト4入りを果たした全日本選手権を振り返ったインタビューをピックアップ。さらに、自身のこれからの方針や、オリンピック代表争いを通して成長したことを語ります。
*所属・年齢は当時のままです。
*ここに紹介の記事は、本誌記事を一部抜粋、編集しています。文中敬称略
本誌記事ページはこちら!

 

ポジティブに世界を見据えて

 

2015年。伊藤美誠は一気にブレイクした。日本代表として世界選手権蘇州大会に出場。女子単でベスト8入りを果たし、新人賞にあたるブレイクスルー・スター賞を受賞。そこから日本のみならず世界中から注目を浴び、世界ランキングもグングンと上がる。
「東京オリンピックに出場し、良い結果を残すためには、絶対にリオオリンピックに出場したい」と決意を決め、熾烈なオリンピック代表争いが行われた。個人戦代表には一歩届かなかったが、団体戦候補メンバーに選ばれ、代表が正式に決まれば史上最年少となる。
そして迎えた全日本選手権。伊藤は、昨年度のベスト8よりワンランクアップのベスト4入りを果たす。
「優勝以外は意味がない。2位以下は、1回戦負けと変わらない」とよく耳にすることがある。しかし彼女からは意外な答えが返ってきた……。

 

 

遠征、練習、そして取材などで多忙を極める伊藤を訪ね大阪・関西卓球アカデミーへ。約1年ぶりの取材である。
幼少期から注目をされている伊藤だが、まだ15歳。しかしラケットを握り、コートに立てば一瞬にして一流アスリートに変貌。年齢などは関係ない。しかし今回の取材では笑顔が絶えず、試合中では見ることができないような表情で全日本選手権を振り返ってくれた。
「今回のシングルスはベスト4。悔しいか嬉しいか、と聞かれたら正直嬉しいですね」と驚きの答えが伊藤の口から聞くことができた。なぜなら筆者は、優勝を目指す選手にとって、ベスト4という結果はさぞ悔しいだろう、と思っていたからである。

「準決勝の相手は小さい頃から対戦していて、親交のある平野美宇選手(JOCエリートアカデミー)。ジュニアの試合では平野選手と対戦することは想定できますが、全日本選手権の一般の部で対戦することはなかなかありません。

試合前、準決勝という舞台で平野選手と対戦できる喜びを少し感じていて、いつもの対戦前とは少し違う心境で試合に挑んでしまいました。平野選手の心境はわかりませんが、試合をして感じたことは、平野選手は決勝進出を目指して私に向かってくるプレーをしてきました。そこで私がいつも通りプレーすることができませんでした。よくわからないんですが、何か意識してしまったのです。
もちろん負けてしまったことは悔しいです。しかもあっさり負けてしまいました。反省しなければいけません。しかし、全日本選手権に向けて練習してきたことは、本番で出せましたし、手ごたえを掴みました。そこは自信になりました」と話した。
今回の全日本選手権。伊藤は、昨年度優勝したジュニアの部に出場せず、一般シングルス、ダブルスの2種目に集中するように努めたが、ダブルスはまさかの初戦敗退。敗戦後は、珍しく悔しさをあらわにした。しかし、シングルスに集中します、と力強く話していた。

 

シングルス。伊藤は初戦から「左利き・バック表ソフト・異質ラバー」と3連戦。
「組み合わせが出て、対策練習をしっかりしました。初戦から負ける可能性があったので、初戦の1ゲーム目からガンガン足を動かして、思い切って攻めました。練習通りのプレーができました」と振り返る。
ランク決定戦も勝利し、次は若宮三紗子(日本生命)と対戦。
伊藤は3ゲームを先取。取ったゲームの内容も良く、ストレート勝利のペースであった。しかし結果はフルゲーム。薄氷を踏む思いで勝利をあげる。「ポンポンと自分のリズムで3ゲーム取ることができました。相手はそのあと作戦を変えてきたのですが、自分はそのままの作戦で臨み接戦になりました。最後はしっかり考えて攻めることができたので、なんとか勝つことができました」と話した。
準々決勝の相手は同じジュニア世代の浜本由惟(JOCエリートアカデミー/大原学園)。浜本戦に勝利した瞬間珍しく大きくガッツポーズ。理由を聞いた。
「浜本さんは、世界選手権国内選考会で優勝。そして全日本選手権ジュニアの部で優勝。勢いに乗っていたと思います。難しい試合になると思っていたので、向かっていく気持ちでプレーしました。勝った瞬間は自然とガッツポーズが出たんだと思います」

 

熾烈なオリンピック代表争いでの経験が、全日本選手権ベスト4という結果に結びついた

 

世界選手権蘇州大会でベスト8入りを決め、熾烈なオリンピック日本代表争いの末、代表を決めた伊藤。たくさんの重圧があったと思うが、本人はプレッシャーはあまりないと言う。
「プレッシャーはそこまでありません。もちろんオリンピックの代表候補に決まったということで、代表選手に相応しい行動、選手になろう、という気持ちがあります。しかし、試合ではリオオリンピック代表候補選手だから勝とう、良い結果を出さなければ、という気負いはありません。自分らしくプレーすれば結果はついてくると思っているので、これからも目標に向かって頑張っていくだけだと思います。
応援してくれる人がたくさんいる、というのも心強いです。応援を力に変えたいです」と笑顔で話す。

 

過酷だったリオオリンピック代表争いの環境も今の選手人生においては大きなプラスになったそうだ。
「リオオリンピックのシングルス代表権は昨年の9月のランキングで上位2位に入っていないといけません。もちろん目標はシングルス出場でした。
世界ランキングを上げるため、何度もワールドツアーに出場しましたが、その時にダメな時でもそれを引きずるのではなく『気持ちの切り替えをしないといけない』ということを学びました。自分が落ち込んでいる時でも、大会は開催されますし、試合は待ってくれません。ある程度の割り切りが必要なんだ、と思えました。
その経験があるので、今では『このゲームを落としても次がある』などと考えられるようになり、少し気持ちが楽になってプレーできていると思います」と語る。
「昨年と比べたら3球目攻撃がよくなったと思います。そこは意識して練習をしていました。これまでは回転を使って、相手のミスを誘うボールが多かったのですが、世界を経験して、『抜くボール』で、相手がノータッチで得点をあげるように意識しました。コース取りを意識し、ボールのスピードは速くなったと思います。
また自分らしさは攻めていくスタイルだと思っていて、以前は守って勝つ試合が多かったのですが、最近は、攻めて勝つ試合が多くなったと思います。
自分はバック面表ソフトラバーの選手。もちろん表ソフトラバーなので、変化のボール、相手にミスをさせるようなボールが出せるようにもっと練習をしないといけないのですが、表ソフトラバーだからといって限界というか、常識に捉われず、将来的に裏ソフトラバーの選手のように、ドライブボールであったり、自分から積極的に攻めていけるようになりたいと思っています。そこがこれからの課題だと思います」と力強く話した。

 

幼少期から注目されている伊藤美誠。小さい頃から活躍するが故に、今回の全日本選手権ベスト4入りも凄いことであるにも関わらず、メディアは敗戦の記事を大きく取り上げた。しかし「敗戦」の記事が大きく取り上げられることは、一流アスリートになった証拠である。

伊藤はまだ15歳。プレッシャーに負けず、新たな目標に向かってチャレンジし続けている。取材後、差し入れの洋菓子を笑顔で食べる姿は、アスリートの表情ではなく、どこにでもいる15歳の中学生の表情だった。