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2021.02.02

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特別インタビュー 石川佳純進化論~もっと強くなるために~

  • 5年ぶり5度目の皇后杯を掲げる石川佳純

  • バックハンドがさらに進化し、プレースタイルにも幅が広がった

全日本選手権が終わっても、石川佳純に休みはない。取材や撮影に追われていた。5年ぶり5度目の優勝。感動的な内容は、まさに石川の卓球人生を物語っていた。2009年の世界選手権横浜大会での大逆転劇をはじめ、石川には「諦めない」という言葉が似合う。逆をいうと、諦めないからこそ、勝利を掴めるのである。早い年代から活躍をする卓球界にとって、27歳の石川はベテランと位置づけられてしまう。しかし27歳になっても、なお前に進み続ける石川は、何を考え、追求し、いかにして自分を磨いてきたのだろうか…。

 

例年と違う環境で行われた全日本選手権

 

例年行われるダブルスは中止。多くのシード選手はダブルスから登場し、台の感覚、会場の雰囲気を味わう。しかし今回行われたのはシングルスのみ。多くのスーパーシード選手(初戦の選手)が苦戦、敗戦する中、石川佳純は違っていた。

 

「調子は良かったと思います。試合をしていましたので。いいカタチで練習をして、試合に挑んで、課題をみつけて、課題を克服するために練習をする。いいバランス、いい時間配分で試合と練習ができていました」と石川は全日本選手権を振り返る。

 初日の3試合を全てストレートで勝利。好調なプレーが続く。

「前回の対戦で競り合いになった前田美優選手(日本生命)の試合をストレートで勝てたことは自信になりました。課題としていたことが克服できている、という手ごたえを感じられる試合内容だったからです」と笑顔で振り返る。

 

 続く準々決勝では、横井咲桜選手(四天王寺高)、準決勝の木原美悠選手(JOCエリートアカデミー/星槎)に勝利し、決勝の舞台へ。石川は、伊藤美誠選手(スターツ)と対峙する。

 試合は、世界でもトップクラスの伊藤の打点の早い攻撃に、石川はリズムを奪われる。1ゲーム目を落とす。2ゲーム目こそ奪うが、3、4ゲームを落とし、ゲームカウント1-3。誰が見ても劣勢の展開。しかし石川だけは確かな手ごたえを感じていた。

「たしかに劣勢の展開でしたが、落としたゲームは全て接戦。あの時「1本」取っていればという内容でしたし、自分の中では流れを掴んでいると感じていました。ですので、どうにかなる、と自分を信じていました。とにかく5ゲーム目は絶対に取りたかったです」

 5ゲーム目。石川は守りに入らず再び攻める気持ちで挑む。

 

 「自分の練習してきたこと、特にフィジカルの部分が以前よりも強くなっていたと思うのでスピードボールについていけることができていました。相手の強打に対しても守る気持ちではなく攻める気持ちを持つ。ここまで来たら攻めるしかない、と思えたことが優勝した要因だと思います。正直、最終ゲームの9-5とリードして2本ミスしてしまった時は焦りましたけど…(笑)でも9-9と追いつかれて「守っちゃだめだ。攻めるしかない」と思えてプレーできたことが、これまでの自分と違い成長できていた点だと思います」と優勝を振り返る。

 

9-9からの2本は、得意のフォアハンドが決まった

 

全日本選手権という舞台で強くいるために、活躍するために

 

5年ぶり5度目の優勝。今回はいつもと違った優勝、と振り返る。

「全日本選手権の全試合で、自分の進歩、進化が感じられた試合内容でした。その上で優勝できた、結果を出すことができた、ということは凄く嬉しかったです。これまで自分がしてきたことが間違ってなかったと思えたからです。

 技術、メンタル、体力、フィジカル。特に体力面で今回はバテることなく、全試合で集中力を切らさずプレーでき、技術的な事でいえば、バックハンドの進化がとても自信になりました。メンタルでも、力任せにならずしっかりと状況を把握してプレーできていたと思います。

本当にたくさんの支えがあっての5年ぶりの優勝。10年前の初優勝の時よりも周りの方の支えを強く感じる優勝でした。本当に感謝しかありません」

 

 

もっと強くなるために

 

 プレースタイルの進化で打球フォームを変えるトップ選手は少なくない。しかしどの選手も骨格や筋肉の付き方は違い、身体の使い方も違う。そのため『打球フォーム』も人それぞれ異なる。若年層の活躍が目立つ卓球競技では、石川の27歳という年齢はベテランの位置に属する。また昨今の卓球界の技術の進歩は著しく、時代に応じた進化をとげなれば、取り残されてしまう。

 

 20年前では、フォアハンド主戦の選手がほとんどであったが、現在のスタイルでは、バックハンドが振れなければ時代遅れ。ただ振れるのではなく、バックハンド強打、得点があげられる決定打を打てるスタイルでなければ上位進出は難しいとされている。

 

 ベテラン勢に取っては、時代に対応するべく、フォーム、プレースタイルを大きく変えるために、場合によってはこれまで培ってきたものを壊す必要があり、勇気ある決断を求められる。石川はさらなる進化を求め、フィジカルを強化し、今までのプレーを軸に、バックハンドを強化し新しいプレースタイルを求めたのだ。

 「トレーニングをしばらくやらなくなるとガクッと筋力が落ちますが、トレーニングを定期的に長く行い続ければ、体力もつきますし、練習をやり込んでも大きな怪我をすることはないと思えます。自分がもう一回強くなれた要因だと思います。あとはバックハンド技術の成長。プレースタイルの幅が広がったと思います。」

 

 「あとは本当に気持ちの持ち方だと思います。私の日本代表のスタートは若く(14歳)、若手と言われてきた中で、今ではいきなり年上になりました。年齢のことは気にはしていませんが、私より年上の選手が活躍していると元気、勇気をもらったりすることがあります。今は自分がもっと頑張って、同年代の選手に『もっとやれる』と思ってもらいたいと思います。年上になってしまうと経験だけでプレーしてしまうかもしれませんが、技術面、フィジカル面など様々な面で『もっとやれる』『まだまだやれる』とまだ強くなろうとする気持ちを持ちつつ、これまでの経験と組み合わせることにより、もっともっと成長して強くなれると私は思います。強くなろうと思う気持ちが自分を強く、より成長させてくれるんです。」

 

 石川は自分のためだけにプレーするのではなく、たくさんの人が支えてくれている【思い】を石川自身の中に感じながら、且つ自分の【思い】と合わせて日々達成したい大きな目標にチャレンジしている、とインタビューを通じて私は感じることができた。実際に今回優勝直後のインタビューでも周囲への感謝の気持ちを涙を流しながらコメントしていた。

 

これまで何度も困難な状況があっただろう。諦めそうな時、心を支えてくれたもの。勇気づけてくれたもの。奮い立たせてくれるもの。それはもちろん達成したい大きな目標だと思う。ただ間違っていけないのは、きっとそれは石川【一人で】達成したい何かではなく、これまで自分を育ててきてくれ、支えてきてくれた人たち、【仲間】への感謝の気持ちでもあると思う。心技体のすべてが円熟した今、石川佳純の目にはっきりと大きな目標が映った

 

5年ぶりの優勝を決め、両手を高くあげた