マンスリースペシャル
Athlete File
孫 博
(ソンボウ)(大正大学4年)

打ちのめされた敗戦。だがそれが
「私」をめざめさせてくれることがある。
努力しないと何も始まらないんだ、と…


自分は自分でしかないだから自分のプレーを

真価が問われるのは試合の結果やその内容ではなく、また、そこに至る過程でもない。アスリートとして、真の意味で大切にすべきことは、どんな結果であれ、起こったことに対し、どう咀嚼し対処していくかということなのかもしれない。

たとえば、フィギュアスケートの浅田真央は、グランプリファイナルで敗れ帰国した直後、リンクに直行し練習に取り組んだ。浅田の母に聞いたところでは、それは本人の意思によるものだという。
いい成績であっても、思わず目を覆いたくなる結果であっても、そこから何かをつかみ取り、「次」へのステップとすることができるかどうか...。そこに選手としての真の評価が表れてくるのだろう。

大正大学のエース孫博もまた、その意味を十分に認識している選手である。

高校1年で来日以来、圧倒的な強さを誇っている。
インターハイ2連覇を達成し、大学1年のときには全日学を制覇。
翌年から全日学に外国人選手が出場できなくなったが、新設の全日本学生選抜は第1回からすべて優勝した。
事実上、学生ナンバーワンの座を不動のものとしたのである。

そんな中の今年6月、4連覇をかけた関東学生選手権が開かれた。大会前、多くの関係者に、
 「4連覇、がんばってね」 「期待しているよ」
などと声をかけられ、若干重い気持ちを持っていたという孫博。

だが、順調に勝ち進み決勝へ。
相手は、秀光中等教育学校時代の後輩で、淑徳大学1年の山梨有理だ。公式戦では初めての対戦だったが、練習ではかなり分がいい。多くの人が孫の4連覇は確実だと考えていたはずだ。ところが...
試合は競り合いとなり、最終第7セットへ。しかし、出足から孫がペースを握り5‐2と優勝に大きく近づいたかと思われた、そのときだった。
ここで山梨はタイムアウトを取り、流れを変えようと試みる。
「山梨さんはここから、オールフォアで攻めてきました。逆に私は、考えが中途半端だったかもしれません。うまく対応できなくなってしまったのです」(孫博)
プレー自体が守勢にまわった孫は、心の中までもが「受け」の姿勢になっていた。

〈次はもう攻めてこないだろう〉
〈ここは多分、バックを使ってつないでくるはず〉

との思いが頭の中をかすめたが、それが甘い考えであることをすぐに思い知らされることになる。
山梨はフォアハンドによる攻撃の手を緩めることはなかった。
あっという間に追いつかれ、8-8から9-9。そして、最後まで攻め続けた山梨が接戦を制し、孫の4連覇の夢を打ち砕いたのである。

だが孫は落胆するどころか、逆にこの敗戦で気持ちを新たにした、とはっきりとした口調で話す。

「結果として負けてしまったのですが、それは私にとって決してマイナスではありません。大きなダメージを受けるような敗戦を喫したからこそ、感じたことがあるからです。それは、どんな状況でも守りに入ってはいけないということと、常にチャレンジャーの気持ちでコートに向かわなくてはいけない、ということ。だからこの敗戦は、私を大きく目覚めさせてくれた試合なんです」

確固とした力がみなぎるその瞳からは、一般的には「負の部分」と思われる敗戦からも、常に何かを学び取ろうとする貪欲さが窺える。そして、笑顔でこうも話す。

「これまでも一生懸命に練習してきましたが、さらに努力しないことには何も始まらないんだな、と思いました。負けることは辛いことではありますが、けれど、それによって一層がんばろうという気持ちが強くなってきたんです」

170センチを超えるスラリとした長身は、コートに向かうとさらに大きな印象だ。それは、こんな前向きで真摯な姿勢があるからなのかもしれない。


大学の4年間で特に印象に残っている試合は、昨年の関東学生選手権の決勝だ。
淑徳大学の陳とのその試合は、押され気味の展開となり、最終セットも2‐5でチェンジコート。
ここから孫は、自分のプレーをすることだけに集中し、7-7から8-8と接戦に持ち込み、最後はジュースの末、苦しい試合を制したのである。

実は、この戦いに象徴的に現れている孫の卓球への姿勢がある。本人の言葉によると、それは次のようなものである。

「この大会で優勝したとしても、私が私でなくなるわけではなく、逆に、たとえ負けたとしても、自分が自分でなくなるわけでもありません。ですから、自分が持っているものをしっかり出し納得いく試合をすればそれでいい、と思っています。自分の力を出した結果ならば、素直に受け止めるしかありません。私は私で、それ以上でも、それ以下でもないのですから」

撮影:片野賢二
取材・文:青柳雄介
(以下、詳細は「ニッタクニュース2月号」に掲載)

マンスリースペシャルは NITTAKU NEWS より抜粋してウェブ上で公開しています。
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