 
人との出会いの連続が、その人の人生の中で何かを変えることがある。あるいはまた、相手に大きな変化をもたらすことがあるかもしれない。
東京・足立12中の監督を務める多田進先生(54)は、卓球を通して人から多くを学んできた。

そして、自身も人に影響を与えてきたのである。そこには、ほとばしる卓球への気持ちと熱意が込められていた。

負けてばかりのチームが1年間で全中出場を果たす

「負けてばかりのチームだったんです。その選手たちが関東大会に出て、そして全中の代表になったんですよ。驚きました。これこそ奇跡かもしれませんし、こういうことにこそ価値があるような気がします。
先輩たちの活躍を見ていたということも大きいですね。この子たちがコツコツ練習して、偉大な先輩たちに近づこうという気持ちが生徒たちにあったんですね。そこで、基礎練習を初めからやり直したんです。その結果が、奇跡的な代表になったんです。このときは、自然と涙が出ました。うれしかったですねぇ」

選手を引っ張ってくるのではなく、初心者を短期間で育て上げていく。そこにはいったい、どんな手法や理念が存在しているのだろうか...
自分から進んでやるこれが「挑戦」なのである

「理念なんかないですよ。特別な指導もありません。ただ気をつけているのは、あるいは、ひとつだけ言えることは、基礎をきっちりとみっちりと練習するということですか」と、多田先生は話す。
しかしそこには、選手たちのモチベーションを高め、また、多くの協力者を得る、ということもある。
 
そのひとつが、卓球部報『挑戦富士』を多田先生自ら発行することである。これは毎日、あるいは、1日に数回発行されることもある。
伊興中時代からのそれは、既に2000号を超えている。
卓球に関わるさまざまな話題を提供し、そこで生徒に考えさせる。
ときには、一流選手の試合を見学に行き、そこから学べるものを執筆する。
「愛ちゃん」などの話題も盛り込み、中学生を飽きさせないような工夫も凝らしているのである。これによって、選手たちは卓球にさらに興味を持ち、そして練習にも熱が入っていくのだ。
また、保護者の協力も見逃すことはできない。
「私ひとりでは何もできません。応援してくれる人がいるからこそ、こうしていままでやってくることができたんです。その意味で、保護者の理解と協力は大きな力となっています。ですから、休日の練習や試合などのときに見学会を設けて、保護者の方々に見ていただくようにしています。いまでは、体育館いっぱいになるくらいの保護者の方がきてくれます」
そう多田先生は感謝の気持ちを表わす。
そして部報の名にあるように、何事も〈挑戦〉であると力を込めて言う。
卓球以外でも、勉強や掃除、家の手伝いもそうである。普段からのそうした心がけが、やがて何らかの形になって表われてくるのである。
最近の『挑戦富士』の記事を最後に紹介しよう。

〈技術的な面で、「もうチョッと」で、各人が課題をよく認識して練習することがこれから大切だ。もうチョッとというのは、足がもうチョッと細かく動けば良いとか……ほんのチョッとの部分が正確になっていないための凡ミスになっているところだ。要するに「基本」がもうチョッとということになる。卓球に対する取り組みがしっかりすれば解決することでもある〉

〈自分から進んで取り組む姿勢が必要だ。受け身から能動的に移行しなければいけない。トレーニングもしかり……勉強もしかり……行動は自分から進んでやったほうが楽しいし、向上も早い! これが「挑戦」なのだ。やるかやれるかは、すべて自分にかかっている〉
多田先生は、これからもゼロからの選手育成で大きな成果を見せてくれるに違いない。 |