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アテネでのベストマッチは馬琳戦
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そう言い残し、再び現れた彼は、いつもの精桿な表情に戻っていた。 ![]() 卓球界のスーパースター、ヤン ・オベ ・ワルドナーが来日した。 短い日本での日々。スケジュールはぎっしりと詰まっている。疲れもあるに違いない。 それでも、予定を大幅にオーバーして真撃に応えてくれたインタビュー。 38歳という年齢、足の骨折、かつて項点を極めたことによるモチベーションの低下。 そうしたことを鑑みると、アテネでの大活躍を予測できた人がどれだけいただろうか? ワルドナーはもはや過去の人、そんな声さえささやかれていた。 しかし、そうであるがゆえに、不死鳥のように甦ったワルドナーのプレーに、大きく心を動かされた人も多かったのではないか。 「アテネの前の最終合宿から、かなりいい感じでプレーできていたんだ。だから、オリンピックではメダルを獲ることが目標だった。世界選手権でメダルを獲るのとは、また違った意味があるからね。それと、これまでは自分に対する非常に大きな期待の中でかなりのプレッシャーがあったけど、今回は過度な期待もなく、目標に向けて集中することができたんだ」 だが、カラカセビッチ(セルビア)との戦いになったオリンピックの初戦、いくつかの不安要素があった。 オリンピックの1戦目であること。まわりはカラカセビッチには負けないと思っていること。 そして彼とはドイツでチームメイトだということ。 「そんなこともあって、少しナーバスになったし、タフな試合になったよ」 競りながらも4-2で切り抜けたワルドナーは、次に、今大会優勝候補の呼び声高い馬琳(中国)と激突することとなった。 馬は世界ランク2位。年齢的にも脂が乗り切っている。 ワルドナー苦戦の予想は免れなかった。 ![]() 1セット目を11-9で取ったワルドナーは自信を深めた。 《いける。この試合はいける》 アテネヘ来る前、ワルドナーは馬琳対策を十二分に練っていたのだ。 それは、 「馬琳はボクのフォア前とミドル前、そしてバックに深くサーブを出してくると予測したんだ。それに対しどれだけいいレシーブをし、馬琳の攻撃を封じるかがポイント」というものだった。 ワルドナーの読みは見事にあたり、準備してきたとおりの試合展開になった。 ストップ、フリック、そして強いドライブによるレシーブ。ほぼ完壁だった。 馬琳は得意の連続攻撃を封じられ、ぺースがつかめない。結局、11-9、12-10、7-11、11-5、11-9の4-1。圧勝といえるだろう。 ワルドナーは、 「この馬琳戦は、アテネオリンピックでのベストマッチだった」とふり返る。 それだけ馬琳という現在のトップコンテンダー、また王国 ・中国との戦いに賭ける並々ならぬ意欲がそこからは浮び上がってくる。 そして迎えたボル(ドイツ)との準々決勝。 ベスト4入りをかけた戦いだ。この試合もまた、ワルドナーの真髄が発揮されたものだった。 ボルは世界ランクー位になったこともある実力者。優勝してもおかしくない力を備えている。 これに対しワルドナーは、またしても完壁な試合運びを見せた。 1セット目。 ワルドナーには9回のレシーブの機会があった。 そのうち6回がストップレシーブだった。 ボルは3球目攻撃を封じられ、リズムがつかめない。 反対に、8回のうち6回が長いツッツキレシーブだったボル。 これに気づいたワルドナーは、2-4から連続攻撃を仕掛け6連続ポイント、あっという間に8-4とこのセットを決めたのだ。 続く2セット目。ワルドナーのミスもあり、5-10とボル有利。 このセットを落とせば互角の展開になる。 だが、ここからやはりレシーブ力の差が出た。 ストップからの攻撃、それを予測されれば長いツッツキで詰まらせカウンター。徐々に追い上げるワルドナー。 ついにジュースになった。そして12-11と逆転したときだった。
ワルドナーの完壁なレシーブに、迷いが生じたボル。そこで使ったのは長いサーブだった。 しかし、ワルドナーはそれを待っていたかのように強ドライブ。1発で抜き去った。 これで、試合の趨勢はワルドナーに傾いた。 結局、4-1で勝利したワルドナーは、ヨーロッパ選手としてただひとり、ベスト4に入ったのである。 「今回のベスト4はみな、自分よりもランキングが上の選手。だから、この成績にはほぼ満足しているよ。スウェーデンの新聞の1面にも出たし、92年のバルセロナで優勝したときと同じくらい大きな扱いを受けたよ。ボクにとってもまわりにも、そのくらい大きな意昧のあった大会だったんだ」 |
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"スピリット ・ビジョン〃の秘密
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これまで出場した4度のオリンピックには、国王夫妻が会場に足を運んだ。 アテネ後に行われた晩餐会では、王女の隣に席が設けられていたほどである。 アテネでは準決勝で敗れ、3位決定戦でも惜敗した。メダルにこそ届かなかったが、ワルドナー健在あるいは復活を強く印象づけた。 世界のトップランナーに踊り出て、すでに20数年。間もなく不惑の年齢に達しようとしている。その間、世界を2度、五輪を1度制した。 あらゆるタイトルを獲得してもなお、これだけの長きにわたり頂点に君臨し続けるアスリートは他にはいない。 その秘訣はいったいどこにあるのか。それをワルドナーは、卓球を楽しむことだと語る。 「勝ったときはもちろん、負けたときも楽しむこと。それと、自分の卓球を発展させる喜び。発展させ勝利に結びついた充実感。これを持ち続けることが何よりも大切なことじゃないかな」 大きな大会ごとにワルドナーは復活し、いい成績を残してきた。 そのことに人々は驚嘆の叫びを上げ、そしてその偉業に賞賛を贈る。 「今回のオリンピックについて一言えば、足の骨を折って何ヶ月も動けなかった中で、そのことでかえって、卓球がしたいという原点に戻ることができ、そして楽しむことができたんだ」 卓球を始めたころのような純粋な気持ちをいつも抱いていることが、プレーを進化させる原動力なのである。 天才、100年にひとりの大選手。 ワルドナーを形容する言葉にはこと欠かない。 まるで飛んでくるコースがわかっているかのような動き、相手の読みをはずす術もある。そして、必要最小限しか動いていないようにも見える。
なぜ、そんなことが可能なのか?「そんなことないよ。ボクは実によく動く選手なんだ(笑)。97年のマンチェスター世界大会では、誰よりもフォアで動いたし、アテネでも動きがよかったよ。馬琳の動きが速いと感じなかったのは、それ以上にボクが、速くたくさん動いたからじゃないかな」 そして、ワルドナーにはやはり特別な能力が備わっている。それを"スピリット ・ビジョン"と彼は呼ぶ。 「これから起こるであろうことを想像する、あるいは予知する能力が、ボクはもしかすると人より優れているかもしれない。そしてそれを待つ。いろんな選手と試合をして、その経験でどんな方法で攻めてくるかわかるんだ。小さいときから他のボールスポーツでも、その感覚はよかったよ。 6歳でクラブに入ったけど、常に最高の環境で練習できたことも大きいね。卓球は自分の能力とピッタリ合っている、パーフェクトなスポーツだね」 ここにこそ、ワルドナーのワルドナーたる証明がある。 「来年の世界大会でもいいプレーをするよ」と言ったワルドナーは、再び若さを取り戻したかのように溌刺とした表情をしていた。 |
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| 講習会で見せた華麗なバックハンド | チビッコファンに囲まれて嬉しそうなワルドナー |
